社会福祉法人豊寿会:サンライフ彦坂

口腔機能の維持向上と食事のケア~歯科医師、歯科衛生士と関わりとその役割~

平成24年度全国老人福祉施設大会<広島大会>(平成24年10月23日)でサンライフ彦坂が研究発表した内容を公開します。

みなさん、こんにちは。岐阜県岐阜市から参りました特別養護老人ホームサンライフ彦坂、介護員の谷貴順です。
それでは、サンライフ彦坂における口腔機能維持向上と食事のケア~歯科医師、歯科衛生士の関わりとその役割について発表させて頂きます。

私達サンライフ彦坂のケアの原点は、「高齢者の方がその一瞬、一瞬を笑顔で過ごすことを支えたい」いう全職員の熱い情熱です。これは、高齢者の思いである、「自分で好きなことを好きなようにできる生活をもう一度手にしたい」という思いに応えるものです。それを実現する中身は「自立」であり、なるべく他からの干渉のない(少ない)生活のことをいいます。これを保証するのもが「自立」であり、それが介護の専門性だといえます。介護の対象となる方は、必ずしも自立が可能な方ばかりではない。しかし「できる限り自立」を求めていくことは、行動の自由や選択肢の多さを保証し、その人らしい生活を最大限手にすることに繋がる。それらは、すべての方の基本的ニーズであり、我々サンライフ彦坂の職員はそのニーズに応えることをすべての実践の核としています。

当施設は、平成17年、平成22~24年度と、全国老人福祉協議会主催の介護力向上講習会に参加しております。そこで学んだ、知識と理論を活用しながら、利用者の方により元気に笑顔で生活していただける支援を実践しております。

食べることは生きること。毎日の食事は、体を作り、健康を支える上で必要不可欠であり、生活そのものにメリハリとリズムと楽しみをもたらすために欠かせないものです。利用者の方に元気に笑顔で生活して頂くためには、その基礎を作る食事ケアは欠かすことができません。
しかしながら、従来の食事ケアあくまで、場当たり的なケアであり、どんどん衰える高齢者の方に合わせた食事形態を提供するだけの守備的なケアでしかありませんでした。その一方で、普段、刻み食やおかゆの利用者も、好きなものならそのままの状態で食べる姿をまのあたりにし、歯がゆい思いを抱いておりました。

その中で、平成22年度の介護力向上講習会にて、その思いを叶えることができる、機能を回復し、もう一度好きなものを美味しく食べる前向きなケアの理論と実践方法という、武器を我々は手に入れました。そこで、もう一度、食事ケアを見直し、利用者1人1人の口腔機能に目を向けた、常食への移行を昨年度7月期より開始しました。

常食移行こそが、学習理論に基づいた口腔機能の維持向上に必要不可欠なものであり、楽しく、美味しく食べる食事ケアです。そのためには、口腔機能特に義歯、歯科医師、歯科衛生士の関わりが必要不可欠であります。

実践開始前のサンライフ彦坂の常食者は、入所者100名に対し20名しかおりませんでした。日々、状態変化の可能性が高い利用者に対し効果的、スムーズにケアを実践するために新しい方法でケアを開始しました。

具体的な方法として、
1)常食外の全利用者対象にアセスメント実施及びシートの作成
2)それをもとに、毎週ケアカンファレンスの実施
3)介護職員中心にケアの実施とモニタリング
それぞれの方法について詳しく説明させて頂きます。

はじめにアセスメントについてです。平成23年度、オムツ0特別連絡会主催の常食移行の研究事業に参加した際の「口腔摂食嚥下アセスメント表」をもとにアセスメントを行いました。こちらがアセスメント表です。これがあるからこそ、必要なケアを効果的に、的確に実践できます。
次に、先ほどのアセスメントをもとに必要ケアを洗い出し、明確にするケアカンファレンスを実践しました。
最後に、カンファレンスで決定した内容をふまえ、現場での実践を行い再度モニタリング、アセスメントを実践していきます。
このサイクルを確実に実践することで常食移行に向けたケア体制を構築することができます。
実際のカンファレンス及びアセスメントにて、サンライフ彦坂では原則を設定し、次のチェック項目をクリアすることで常食へと移行するケアで実践しました。

はじめに、1)水分ケア。1500CC以上の水分補給により、覚醒水準が向上し、「食事を食べること」に対する準備が完成する。
次に、2)口腔機能。主に、咀嚼、食塊形成に必要な「義歯」の作成及び調整です。

サンライフ彦坂では、施設内に歯科診療室が設置されており、週2回歯科医師による受診として診察、治療まですべてができるハードが整備されております。外来として施設外に出る必要がなく、施設入所の利用者がいつでも受診可能な体勢が整備されております。これにより、口腔機能の向上に必要不可欠な義歯調整などは、スムーズに行えます。

次に、3)口腔ケア。口腔ケアに関しては、直接歯科衛生士から、常食外利用者だけでなく、常食に移行した利用者の口腔状態の維持のために必要な口腔ケアとして情報共有を図ります。

このように個々の利用者の口腔状態、特に自歯がどのような状況で、どこを重点的に行う必要があるのか指導を受けます。また、口腔機能に合わせて、個々の利用者ごとに口腔ケア用品の使用方法についても指導を受けます。

次に、4)咀嚼支援。咀嚼機能は、常食移行に必要不可欠なものです。咀嚼がある方に関しては、常食の嗜好品例えばどら焼きや、うなぎ等を提供し、摂取可能であればその日のうちに常食へと移行します。咀嚼ができれば常食を食べることができるといっても過言ではありません。
※データ(咀嚼のみ)
のちほどまとめたデータを提示しますが、咀嚼できる方は、サンライフ彦坂では全員常食が食べることができました。このデータは非常に重要であります。

次に、座位支援。安定した座位を支援し、咀嚼機能の向上を図る。また、食べやすい環境で食事をすることで、自力での食事を促すことに効果的です。

人間に個性があるように、利用者の方それぞれ体格もばらばらです。事前に膝下からの長さを測り、それぞれに合わせた椅子の購入を行いました。

最後に、摂食動作。いわゆる自分で食べるとことです。誤嚥を予防し楽しく美味しい食事を提供できます。
具体的なケアとして、自助具の導入や、おにぎりといった手に持って食べやすい食事形態の提供です。その中で、おにぎりは大変効果的で、手に持つ行為が食事をする行為自体を思い出させる効果もあると考えられます。

上記内容を重点的にアセスメントし、それぞれの方に合わせたケアを提供しました。原則は、自分で食べて咀嚼できる方は常食へ移行する。この効果もあり、初めて1週間足らずで、常食の方が20名から62名まで変更できました。

それでは、上記の流れから実際に常食へと移行した事例を紹介致します。

T様 79歳 男性の方です。介護度5 障害高齢者の日常生活自立度C1。認知症高齢者の日常生活自立度4となっております。既往歴として、急性くも膜下血腫、前立腺肥大、脳梗塞、脳血管性認知症、大腿骨骨折。認知症の進行により、当施設へ平成20年1月入所しております。食事形態は、入所時より主食、副主食ともペーストです。

常食化への取り組み前、平成23年度のアセスメントの結果を受け、各項目に合わせ、それぞれの部署がそれぞれのアプローチを開始しました。
今回のケースの特記事項として、覚醒水準は高く、咀嚼する動作はありましたが、義歯がなく咀嚼し、食塊形成を行うには、口腔機能が不十分であること、また全身に不随運動があり義歯そのものの作成が困難であること、また、不随運動から椅子への座位確立していないこと、水分で咽せが多くあり、「飲むこと」の意志疎通が図れず、コップや水を咀嚼する姿があり、水分補給方法及び水分形態の確立が上げられました。

そこで、歯科医師、歯科衛生士が中心となり口腔機能維持向上のために義歯の作成及び調整。舌、口腔マッサージの導入を行い、機能向上を図りました。また、栄養士が中心となり、水分補給時に必要なゼリー状のお茶を作成し、水分補給時に使用しました。また、座位による咀嚼機能向上のため、本人の不随運動を考慮した椅子の提供を実践しました。

結果、約1ヶ月後、義歯完成に合わせ常食へと移行することが実現。現在に至るまで安全で美味しい食事を提供できております。

このように、前向きな姿勢を科学的介護が支えてくれることで常食へ移行する、当たり前を定着することができました。
また、常食へ移行することが当たり前になることで、常食が食事だけでなく様々なことにも影響を及ぼすことが見えてきました。

次に、常食へ移行すること、常食がもたらす効果を事例にて紹介します。

(T・M様)92歳 女性。介護度5、障害高齢者の日常生活自立度C2。 
認知症高齢者の日常生活自立度 Ⅳとなっております。既往歴として、アルツハイマー型認知症、両膝関節変形症、血腫 右大腿骨骨折です。
徳島県徳島市生まれ。昭和13年に結婚、子供は、1男二女をもうけます。昭和38年に夫が死去。夫が死去してからは1人暮らしをしており、認知症の進行により、平成18年12月当施設に入所となっています。

常食移行前、平成23年5月のADL状況として、食事形態は主食、副食共にペースト。すべてにおいて全介助であり、夜間不眠の認知症状もありました。また、普段から表情に活気がなく、ぼーっとしていることが多い状態でした。

先ほどの流れの中で、常食へと移行することが実現でき、その後様々な変化が数値として表れてきます。

口腔機能維持向上が、BMIの向上に繋がることが分かります。このグラフと比例して、ADLの状態も変化しました。もっとも大きな変化として、歩行が実現しました。経緯としては、常食化に伴う水分量の増加が日中帯の覚醒水準を向上させ、その結果夜間不眠が無くなり、日常生活にリズムが生まる。日中帯の覚醒水準向上に伴い、本人の動く意志がはっきりと現れ、車椅子からの立ち上がりが見られるようになる。そこで、歩行器を購入し歩行支援を実践すると、歩行器を使用し歩行が可能となりました。当初は、職員の支えが必要でしたが、現在は自力にて歩行器を使用し、歩行が可能です。また、その様子をご家族へ報告し、実際に見て頂くことで、感謝と驚きの言葉を頂けました。

総論として、口腔機能の維持向上と食事ケアである常食化が、BMIの向上に効果を発揮し、健康で栄養量が高い状態が本人の意欲を引き出し、その結果本来あるADL能力を再獲得したと考えられます。

このように、食事が変わることで、ADL全般に影響を及ぼし、その結果自立性の高い生活に繋がることを私達は利用者から教えていただけました。またその自立性が利用者のQOL向上に繋がり、それがご家族の満足度へと帰っていくことを実感しました。

今回、介護職だけでなく、他職種が連携することでより専門性の高いケアの実践に繋がることを理解しました。
特に、口腔機能維持と食事ケアに関して、歯科医師、歯科衛生士の役割は非常に重要であり、連携は必要不可欠です。

歯科医師が口腔機能全般の状況把握を行い、義歯作成、調整による口腔機能向上のケアを実践し、歯科衛生士による個別性の高い口腔ケアの実施と、日々の口腔ケアを提供する介護職に対する専門用具使用についての指導、助言によって、口腔機能を維持するケアの実践こそが、全利用者の口腔機能維持と食事ケアを支える土台であります。その上で、サンライフ彦坂では、嚥下内視鏡を使用したVE検査を実践しています。

このように利用者の個々の状態を正しく把握することで、継続的な口腔機能維持向上と食事のケアが提供できます。利用者である高齢者は、何もしなければ日々機能が低下していきます。常食における栄養量と咀嚼回数が、高齢者の元気な体を作り上げること、そしてそれを継続的に提供できるケアの構築が歯科医師と歯科衛生士により実現することができました。

常食への移行を核とした、口腔機能の維持向上と食事のケアを実践する中で、課題も見えてきました。課題をふまえ、現在サンライフ彦坂では新たに以下の実践を開始しました。

1)栄養士における水分管理
栄養士がその専門性を発揮し、口からの水分補給に特化した水分形態の確立を行います。
経管栄養者や誤嚥のリスクが高い方に関しては、より高度な水分形態が必要であります。これにより、水分のとろみや味付け等における個別性が充実し、誤嚥のリスク軽減と経管栄養者に対する水分補給の課題をクリアにできます。

2)専門職による困難事例検討会の開催
専門職個々に求めるケア、リハビリの内容を明確にしそれぞれの立場から専門性を発揮した実践を行います。従来の関わりでは、介護職の考えるケアに関してそれぞれの関係職種に伺い、同意を得て提供するケアの流れでは、多角的で建設的なケアは生み出されません。そこで、各専門職がその事例や症状に対しそれぞれの見解で独自のケアを提案します。それを総合的に各専門職が専門性を発揮したケアを提供することで、あらゆる角度から利用者を支えることができます。重要なのはできるできないを判定、診断するのではなく、その方の口腔機能維持向上と食事ケアのため、どのようなことがその専門職としてできるのかが重要であります。

3)積極的外部への発信
嚥下内視鏡によるVE検査を積極的に取り入れることで、不安な思いを抱くご利用者、ご家族に状況を正しく把握して頂き、ケアへのご協力とご理解を頂きます。まだまだ高齢者の口腔機能や食事ケアに関して認知度は低いのが現状です。「もう歳だから、無理しなくていいよ」等のご家族の思いも実際にありました。相談員中心あらゆる角度から説明・同意を得るのに時間がかかることもあります。しかしながらこれにより、スムーズにタイムリーなケアの提供が実現可能となります。

最後に、今回の口腔機能維持向上と食事ケアにおいて、常食化は核となるべくものであることが実感できました。その中でも、口腔機能維持向上の中心である咀嚼に関する「歯」の分野に特化した、歯科医師、歯科衛生士の関わりは必要不可欠です。
口腔内清潔のための残歯への重点的口腔ケア、入れ歯の作成と調整のよる咀嚼機能回復、また、嚥下内視鏡によるVE検査によってそのケアの安全性を保証することができます。科学的介護を実践する中で、介護職の専門性の向上のためにケアを支える役割として無くてはならないものです。

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